目覚め

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 上の方からズズズズズという低い音が聞こえて来た。沙羅が外に出てみると、巨大な皿がゆっくりと下降して来ている。その上に立ちつくす多くの人影が見えた。  やがて大皿は駅前の広場のすぐ上で静止した。上面からスロープが何本も地表に伸ばされ、住民が列をなして降りて来る。沙羅は物陰に隠れ様子をうかがったが、地上に降りた住民は会話を交わすこともなく、町の中へ散らばって行った。全ての住民を降ろすと、大皿はふわりと浮き上がり空の彼方へ飛び去ってしまった。  「ゲーム」は終わったみたいなので、沙羅は自分の家に帰った。絞り出し袋に残った自家製マヨネーズをパンに付けてお昼ごはんにする。カリフラワーやブロッコリーの化け物がまた出てくるのでないかとびくびくしていたが、彼らはもう姿を現さなかった。  夕方になると沙羅の両親が家に帰って来た。何が起こったのか沙羅が問いただしてもきょとんとするばかりで、いつもと同じ一日を過ごしたと思っているようだった。LINEで友達に聞いてみても同じ反応だった。 「訳わかんないけど、片付いたんだからいいか」  沙羅は自分の部屋のベッドの中で、マヨネーズを作るため泡だて器を振り過ぎて痛くなった右手をさすりながらつぶやく。試練の日々がまだまだ続くとは知る由もなかった。                 終わり
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