隣人の愛

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隣人の愛

 目を覚ますと白い天井が見えた。なんだ、どうやらまだ生きているらしい。恋人と友人に裏切られ、泥沼の三者話し合いの最中に最愛の母の訃報を受け取った足立みちるにとって、死という選択肢は一気に驚くほど身近なものになった。  看護師の話では、隣人の男が風呂場で倒れているみちるを発見し、病院に運んだのだという。しつこくみちるの家の呼び鈴を鳴らす宅配業者の音に思わず出てきた隣人は、古いアパートの、立て付けが悪く僅かに開いたドアの隙間から、倒れているみちるの足が見えたのだと言ったそうだ。  こんな時に、時間指定で荷物の配達を頼んでいたことを忘れるなんて、本当に残念なくらいうっかり者であることが悔やまれる。全部終わると思ったのに、一命を取り留めてしまったか。なんと運が悪いのだろうと、みちるは命の恩人である隣人の男に感謝するどころか、罰当たりにも恨めしくさえ思った。  そんなことを考えていると、病室のパーティションである薄黄色のカーテンがざっと開き、見知らぬ男が現れた。  男はみちるよりも十歳くらい年上だろうか。四十近くに見えた。痩せ型でかなりの長身、切れ長の目をしていて、どこか物憂げな表情をしている。何も言わずに静かにベッドの横の椅子に座るとじっとみちるの目を見た。  みちるはその男を見て直感的に、病院まで運んでくれた、あの隣人だろうと思った。     
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