48人が本棚に入れています
本棚に追加
*(3)White Christmas
街中では、クリスマスの飾り付けやイルミネーションが目立ち、あちこちでクリスマス・ソングが流れていた。
「明後日のイヴだけど……」
足早に帰ろうとした美砂であったが、松岡に捕まってしまった。
「現代フランス料理のレストラン、良かったら、僕と一緒に……」
その時、美砂のスマートフォンが鳴る。
奏汰からであるのは、着信音でわかった。
「ちょっと、ごめんね!」
美砂は、奏汰からのメッセージを見ると顔を上げた。
その瞳には、いつもの彼女にはない、ある強い意志のようなものが浮かんでいた。
「ごめんなさい。その日、用事が出来たの」
松岡が耳を疑い、面白くなさそうに言った。
「またあのミュージシャンの彼氏?」
「うん。忘れ物、思い出したから、じゃ、ここでね!」
奏汰のメッセージを読んでから、落ち着かない思いにかられた美砂は、オフィスへと走って戻っていった。
勤めているオフィスのフロアで、エレベーターが止まる。
息せき切って駆け出した美砂は、残業中の須藤を見つけた。
「あれ? 美砂ちゃん、どうしたの?」
「わ、忘れ物……です!」
呼吸を乱しながら、美砂は須藤に近付いていく。
周りには、まだ残業の社員がちらほらいた。
美砂は、スマートフォンで『J moon』のHPを見せた。
「イヴの日、ここのクリスマス・ソング、聴きに行きたいんです」
須藤は周りを見て、誰も自分たちを見ていないことがわかってから、気遣うように美砂を見た。
「そこに行っても、もう大丈夫なの?」
「須藤さんが、一緒に行ってくれるなら」
不安そうに返事を待つ美砂を見つめてから、微笑して、須藤は頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!