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店では、奏汰たち従業員も加わったクリスマス・ソングのライヴが始まる。その間の三〇分は注文を受け付けない代わりに、チャージ代は無料であった。
一回目のライヴでは、定番のクリスマス・ソング数曲をジャズ風にアレンジしていた。
奏汰は終始エレクトリック・ウッドベースで、タケルはアコースティック・ギター、優がピアノを演奏し、ドラムと女性ボーカルは外部から呼んでいて、音楽を勉強中の学生だったり、奏汰たちの師匠である橘の弟子だったりと、若手が多かった。
観客の反応も良く、美砂も楽しんでいるようだった。
二回目はまた違う傾向で演奏する、という予告があった。
来客全員に振る舞われるクリスマスケーキの一切れずつが、二人のテーブルにも運ばれる。
須藤は、美砂がまた奏汰に再熱してしまうのではないかと心配するように、ちらちらと美砂を気にしていた。
「私、奏汰くんを、嫌いになんてなれない」
須藤が真面目な表情で、美砂を見つめた。
「だから、ファンになろうと思って。それでいいんです。それが私の結論です」
はにかみながら、美砂が言った。
何かを言おうとする須藤だが、「これで、すっきりしました」と、美砂が笑った。
「松岡くんにイヴにレストラン誘われて、私、また気が進まないのに流されてしまっていたかも知れなくて。そんな時に、奏汰くんから『イヴにクリスマス・ライヴやるから、須藤さんと一緒においで。二人が来てくれるのを楽しみに待ってるから』ってメッセージもらったんです。背中を押された気がしました。私のこと心配して、応援もしてくれてるんだって思えたら、居ても立ってもいられなくなって……」
美砂は一呼吸置いてから、恥ずかしそうに須藤を見た。
「イヴには、……須藤さんと、会いたくなったんです」
須藤はまだ信じられない顔で、彼女を見ていた。
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