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アンコールの『White Christmas』が気に入った二人は、アレンジや演奏、歌がいかに良かったかなどを楽しそうに話し合っていた。
気が付くと、海の見える公園に差し掛かっていた。
美砂が立ち止まり、須藤のコートを引っ張った。
須藤も、足を止める。
「あの、今日は、お付き合いしてくれて、ありがとうございました」
「あ、ああ、いやいや。こちらこそ、素敵なライヴに誘ってくれてありがとう」
美砂は俯いたまま、少しの沈黙の後で、思い切ったような顔になった。
「私、須藤さんのこと……好きなのかも……」
須藤は、その場に棒立ちになった。
「……って気付いたの、ここ数日なんです。私、鈍いみたいで……」
一瞬、動きの止まっていた須藤が、なんとか応える。
「……どうりで、最近、様子がおかしくなったと思ったら」
ははは、と笑ってから、須藤は真面目な顔になると、ぎこちなくであったが、美砂を正面から抱き寄せた。
「ずっと、好きだった」
須藤の腕の中で、美砂は瞳を大きく見開いた。
「……本当に?」
「奏汰くんと付き合う前から」
「えっ、そうだったんですか? やだ、私ったら、やっぱり鈍いんだわ!」
慌てて須藤の腕から離れ、上気した顔で、美砂は彼を見上げた。
「それなのに、須藤さん、奏汰くんとのことで、私の相談なんか聞いてくれてたんですか? ……私、すごく残酷なことしてたんですね。ごめんなさいっ!」
須藤は笑い飛ばした。
「いいんだよ。俺も美砂ちゃんのことが心配だったから。っていうか、それがあったからこそ、とも言えるかな」
「え?」
「か弱そうなのに、意外に芯が強くて、ちゃんと考えてて……彼と付き合ってたからこそそれがわかって、ますます美砂ちゃんのことが好きになってた」
かあっと、美砂の顔中が赤くなった。
須藤は、「かわいい」や「いい子」という形容はしなかった。
それが、彼が彼女の内面を見ていた証に、美砂には受け取れた。
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