48人が本棚に入れています
本棚に追加
ある休日の午前中だった。
奏汰がコンビニに買い物に行っている間、アパートでは、蓮華がひとり留守番をしていた。
チャイムが鳴った。
「おかえりー。……あ」
蓮華がドアを開けると、知らない男が立っていた。
相手の男も、驚いた顔で彼女を見ている。
「あのう、ここは、蒼井奏汰の部屋では……?」
眼鏡をかけた、二〇代後半と思われるその男が、おそるおそる尋ねる。
「ええ、そうよ。奏汰くんのお客さん? 彼なら、ちょっとコンビニに行ってるだけで、もうすぐ帰るはずだから、どうぞ上がってお待ちになって」
蓮華はにこやかに、男を招き入れた。
男はきょろきょろと、部屋の中を見回した。
八畳ほどのワンルームには、ラグの上にローテーブルと、壁側にベッドがある。
小さい家具とテレビの他、スタンドにセットしたベースや、小さいアンプなどがある程度の殺風景な部屋だ。
蓮華が「コーヒーと紅茶、どちらがいいかしら?」と尋ねると、「ああ、すみません、コーヒーで」と答えた。
ローテーブルに、コーヒーが運ばれる。
蓮華は点いているテレビに見入ると、胡座をかいた。デニムのショートパンツの下に、黒いスパッツのスタイルではあった。
彼にしてみれば、ちょっと可愛いおねえさんだと思っていたのが、胡座をかき、せんべいをバリバリ食べながら、缶ビールをすすっている、奇妙な女に映ったことだろう。
見ている番組も、バラエティーである。
これでは、まるで……まるで━━!
「ただいまー。コンビニ行ったら、優さんに会ってさ」
「お邪魔するよ~」
と言いながら、にこにこと、奏汰に続いて優が入ってくる。
「奏汰っ!」
男が立ち上がると、奏汰が驚いた。
「兄貴! なんで、ここに?」
最初のコメントを投稿しよう!