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蓮華と優が急遽カフェで時間を潰しに出かけると、兄と二人きりになった途端、奏汰が眉間に皺を寄せて兄を見た。
「何しに来たんだよ? 会社、千葉だろ?」
兄の潤は、奏汰の生まれつき茶色の髪とは違う黒髪と黒い瞳は、彼と似て吊り上がり気味であり、言われてみれば、兄弟に見えなくもない顔立ちであったが、真面目で地味な印象であった。
「お前にメールした通りだ。職場が横浜支社に移ったのと、母さんも心配してたからだ」
奏汰と似た声質だ。
数日前、奏汰のところに、数年前に山梨に引っ越した母親からメールがあったのを思い出した。
「母さん、心配してたぞ。お前がミュージシャンになるとかで会社は辞めるし、職にも就かずにバーなんかでバイトしてるって。しかも、楽器に金を注ぎ込んでるらしいな?」
「だけど、最近は、音楽学校で週一、二回、臨時講師に決まったし。……まあ、時給だけど……」
「それだって、非常勤で、後任が決まるまでの間なんだろ? 不安定じゃないか。だから、母さんも、父さんには内緒にしてるらしい。それで、俺が千葉からこっちに引っ越す際に、お前の様子を見て来ることになったんだが……」
潤が溜め息を吐く。
「まさか、……同棲していたとはな。まったく、どんだけ堕落してんだか」
「同棲じゃないって。たまに来るくらいで」
奏汰が言い返すと、潤がキッと睨む。
「……にしても、胡座をかきながらお笑い番組見て、昼間っからビールを飲む……まるで男! しかも、オヤジ! そんな女とは!」
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