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その夜、『J moon』に潤が現れた。
奏汰は潤を睨みつけるが、潤は素知らぬ顔で、カウンターの席に着いた。
「いらっしゃいませ」
にこやかに、蓮華が出迎える。
昼間の印象とは別人のように、潤には見えた。
黒いシンプルなワンピースにアップにした髪、控えめなアクセサリーの、人好きのする笑顔だ。
いくつか短い会話のやり取りをする後、潤の希望するものを蓮華が作り、目の前に置く。
潤の目は、常に観察していた。
仕草も、がさつな部分は微塵も見られず、嫌味のない女性らしさが、彼女の好感度を上げた。
「こんなお味はいかが?」
彼女の作ったロックグラスの中のカクテルは、彼の好みに合っている。
「おいしいです」
「それなら、良かったわ!」
蓮華は、屈託のない笑顔で見つめた。
なるほど、奏汰が、フラフラと釣られてしまったのもわかる気がすると、潤の眼鏡の奥を読み取った蓮華が、潤の方へ、少し乗り出した。
「潤くんは、あたしが彼のこと、弄んでるって思ってるでしょう?」
「違うって言うんですか?」
「あら、言ってくれるわね」
蓮華はおかしそうに笑い、小声で言った。
「ここじゃなんだから、その話は、今度デートした時にね」
蓮華が、いたずらっぽく微笑む。
潤は、「丁度いい、これ以上、奏汰を惑わさないよう話しておこう」と思ったようで、静かに頷き、帰り際のレジで、蓮華から、アドレスの書かれた紙のコースターを受け取った。
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