Ⅲ.(2)兄弟

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 その夜、『J moon』に潤が現れた。  奏汰は潤を睨みつけるが、潤は素知らぬ顔で、カウンターの席に着いた。 「いらっしゃいませ」  にこやかに、蓮華が出迎える。  昼間の印象とは別人のように、潤には見えた。  黒いシンプルなワンピースにアップにした髪、控えめなアクセサリーの、人好きのする笑顔だ。  いくつか短い会話のやり取りをする後、潤の希望するものを蓮華が作り、目の前に置く。  潤の目は、常に観察していた。  仕草も、がさつな部分は微塵も見られず、嫌味のない女性らしさが、彼女の好感度を上げた。 「こんなお味はいかが?」  彼女の作ったロックグラスの中のカクテルは、彼の好みに合っている。 「おいしいです」 「それなら、良かったわ!」  蓮華は、屈託のない笑顔で見つめた。  なるほど、奏汰が、フラフラと釣られてしまったのもわかる気がすると、潤の眼鏡の奥を読み取った蓮華が、潤の方へ、少し乗り出した。 「潤くんは、あたしが彼のこと、弄んでるって思ってるでしょう?」 「違うって言うんですか?」 「あら、言ってくれるわね」  蓮華はおかしそうに笑い、小声で言った。 「ここじゃなんだから、その話は、今度デートした時にね」  蓮華が、いたずらっぽく微笑む。  潤は、「丁度いい、これ以上、奏汰を惑わさないよう話しておこう」と思ったようで、静かに頷き、帰り際のレジで、蓮華から、アドレスの書かれた紙のコースターを受け取った。
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