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数日後、『J moon』を早めに上がった蓮華は、潤をワイン専門店へ誘っていた。
「友達に教わったお店なの。国産ワインもあるのよ。潤くん、好きなワイン選んでくれていいわよ」
潤は、山梨県産の赤ワインを一つ選んだ。
「潤くんも、奏汰くんと同じで、ワインは赤が好きなのね」
蓮華が微笑ましく笑うが、潤は笑わない。
「どう? 兄弟水入らずの生活は」
赤ワインに口をつけてから、蓮華が尋ねた。
潤が、やっと口を開く。
「夜は、奏汰が遅いし、朝は、僕が早いから、あまり顔を合わせてませんね。あいつも、あまり口を利かないし」
「そうなの? あたしの話とかしてないの? 『水商売の女に騙されてるんだろう?』……とか」
潤が気まずそうに蓮華を見る。
「……ええ、まあ……そんな忠告はしましたが……」
蓮華は気を悪くした様子もなく、美味しそうにワインを飲む。
「潤くん、彼女は?」
「今はいませんよ。生憎、僕は、奏汰のようにはモテませんから」
「どうして? 潤くんだってイケメンじゃない? よく見たら、奏汰くんとちょっと似てて、かわいい顔立ちしてるし」
潤は、そんなお世辞は真に受けないぞとばかりに、いかにも警戒するよう蓮華を見た。
「奏汰の事、弄ぶのはやめて欲しいんです。あいつはまだ子供だから、大人の女性がただ珍しいだけなんです」
「奏汰くんは子供じゃないわ。少なくとも、あなたよりはね」
むかっとしたように潤が蓮華を見るが、構わず続けた。
「音楽の才能もある人は、いい男になる素質もなくちゃね。音楽バカはいっぱいいるけど、それだけじゃだめなの。そのためには、いい恋愛をしていかなくちゃ」
「それで、あなたが相手してやってるって、わけですか?」
「あたしは、ただの教育係よ。あたし程度じゃなくて、もっと大人で素敵な女性に、本気で惚れられるくらいじゃなくちゃ」
「それじゃあ、奏汰だって、そっちの女性の方が良くなっちゃうんじゃないですか?」
「……そうなのよねぇ」
ショックを受けるようでもない蓮華は頬杖を付き、視線を反らした。
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