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「でも、あたしには、それを止める権利はないから。そうなったら哀しいけど、あたしのもとから去って行かれちゃってもしょうがないわ」
「そんなことで簡単に諦めてしまうってことは、奏汰のことを本気で好きなわけじゃないんですね」
「……」
蓮華は黙ってワインを一口すすると、再び潤を見て微笑した。
「奏汰くんはまだ若いし、いろんな可能性を秘めているわ。それを抑えてしまうなんて、あたしには出来ないの。いくら好きでも、しちゃいけないことってあるじゃない?」
「……いくら好きでも、しちゃいけないこと……」
蓮華の言葉を反芻すると、潤は、何かを考え込むよう黙った。
「都合のいい女みたいだけど、奏汰くんのことは自由にさせてあげたいの。彼を知れば知るほど、そう思うようになっていったの。こういう愛し方も、あっていいんじゃないかしら?」
静かな蓮華の声に顔を上げた潤の目は、どこか遣る瀬ないように彼女を見つめていた。
「それで、あなたは、……満足するんですか?」
「さあ……。あたしも、あんまり大人じゃないからなぁ。本当は耐えられないと思うわ。要するに、強がりを言ってるわけ」
にっこりと笑う蓮華は、再びワインに口をつける。
潤は笑えそうにない。どこか同情するようでもある視線を彼女に向けるが、蓮華は気にも留めていない。
「でも、今が楽しいからいいの。もし、後に、奏汰くんが巣立っちゃっても、後悔しないくらい、お互い今のうちに楽しんでおくの」
蓮華を見つめながら、潤が慎重に静かに問う。
「あなたが、他の男性に惹かれることもあるでしょう?」
「有り得ないとは言わないわ」
「そうなったら、奏汰を捨てるんでしょう?」
「それはわからないわ。その時二人で決めることだから。今の奏汰くんなら、ちゃんとひとりの男として対処できると思うわ」
フッと、冷めた笑いを、潤が口の端に浮かべた。
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