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「やっぱり、僕には理解出来ないな。好きな人にはずっと側にいて欲しいと思うし、相手もそうあって欲しいと思いますから」
「それは、いつか結婚することが頭の中にあるからよ。あたし、結婚はしないつもりだから。今の仕事が面白いの。改善すればすぐに効果があるし、店も成長していくものなのね。奏汰くんには音楽が一番で、あたしにはお店が一番。いくら愛し合っていても、あたしたちの間では、それはお互いに踏み躙っちゃいけない一線なの」
肘を付き、手を組んだ上に、蓮華は顎を乗せて潤を眺めた。
「さあ、あたしは全部話したわよ。今まで、誰にも話したことないことまで━━奏汰くんにだって言ってないことも。今度は潤くんの番よ」
「何で僕が自分のことを、あなたに話さなくちゃいけないんです?」
「話したくないならいいのよ。聞かないから」
そう言った通り、それからの蓮華は、彼の過去には触れようとしなかった。
ワインを飲み終えた二人は、港の公園を通りかかった。
少しだけ、潤の表情は和らぎ、多少は打ち解けた笑顔も見せるようになっていた。
「蓮華さんて、最初の印象と違うんですね」
「ああ、あっちが本来の姿よ。オヤジでしょう?」
あはは、と蓮華は笑った。
「今日はデートだから、大人の女ぶってみたのよ」
「正直な人ですね。根は悪い人じゃないことはよくわかりましたよ」
「ありがと。どう? 奏汰くんとのこと、許してくれる気になった?」
期待を込めた目で、蓮華が見上げた。
潤はすぐさま笑顔を引っ込めた。
「それとこれとは別です」
「う~ん、なかなかしぶといわね。だったら、許してくれるまで、潤くんのこと何度でもデートに誘うからね」
「自分から、手の内見せてどうするんです?」
「それでも、あなたは、あたしに会うわよ」
蓮華が、勝ち気な笑顔になる。
「自信過剰だなぁ」
潤は呆れたように、だが、どこか微笑ましく思っているように、蓮華を見つめた。
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