Ⅲ.(3)兄弟その2

4/7
前へ
/530ページ
次へ
「やっぱり、僕には理解出来ないな。好きな人にはずっと側にいて欲しいと思うし、相手もそうあって欲しいと思いますから」 「それは、いつか結婚することが頭の中にあるからよ。あたし、結婚はしないつもりだから。今の仕事が面白いの。改善すればすぐに効果があるし、店も成長していくものなのね。奏汰くんには音楽が一番で、あたしにはお店が一番。いくら愛し合っていても、あたしたちの間では、それはお互いに踏み躙っちゃいけない一線なの」  肘を付き、手を組んだ上に、蓮華は顎を乗せて潤を眺めた。 「さあ、あたしは全部話したわよ。今まで、誰にも話したことないことまで━━奏汰くんにだって言ってないことも。今度は潤くんの番よ」 「何で僕が自分のことを、あなたに話さなくちゃいけないんです?」 「話したくないならいいのよ。聞かないから」  そう言った通り、それからの蓮華は、彼の過去には触れようとしなかった。  ワインを飲み終えた二人は、港の公園を通りかかった。  少しだけ、潤の表情は和らぎ、多少は打ち解けた笑顔も見せるようになっていた。 「蓮華さんて、最初の印象と違うんですね」 「ああ、あっちが本来の姿よ。オヤジでしょう?」  あはは、と蓮華は笑った。 「今日はデートだから、大人の女ぶってみたのよ」 「正直な人ですね。根は悪い人じゃないことはよくわかりましたよ」 「ありがと。どう? 奏汰くんとのこと、許してくれる気になった?」  期待を込めた目で、蓮華が見上げた。  潤はすぐさま笑顔を引っ込めた。 「それとこれとは別です」 「う~ん、なかなかしぶといわね。だったら、許してくれるまで、潤くんのこと何度でもデートに誘うからね」 「自分から、手の内見せてどうするんです?」 「それでも、あなたは、あたしに会うわよ」  蓮華が、勝ち気な笑顔になる。 「自信過剰だなぁ」  潤は呆れたように、だが、どこか微笑ましく思っているように、蓮華を見つめた。
/530ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加