第2章

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心電モニターの中の心拍を表す線は、間延びして心臓機能の低下を表している。 その病室のベッドの周囲には、長男、長男の嫁、長女、その長女の子供にあたる孫娘が、最期の時を迎えようとしている老婦人を見守っていた。 長男の隆が、妹にあたる妙子と、その娘の愛子に話しかける。 「妙子も愛子ちゃんも、東京からよう来てくれたな。急やったのに」 「そんな、私も今までお母さんの世話を兄さん、義姉(ねえ)さんに任せきりで」 長男の嫁の和美が応える。 「世話言うても、昨日まで元気やったから別に私らも何もしとらんで」 「そうや、昨日まで元気で歳も88で、これは大往生やろ」 隆の言葉に続けて妙子が言う。 「そうやねー。お父さんなんか10年前からあの世で待ってるからね。雪子はまだかーって」 「オヤジ亡くなってからの10年間、オカンは益々元気だったよ。あちこち旅行とかもして。もうやり残した事は無いんちゃうか」 妙子は少し考えて発言した。 「それで言うたらあれだけとちゃう?ほんとは広島に住みたいって言うとったやん。せやけど、戦争後に就職で出て来た大阪でお父さんと出会って所帯持ったから、広島には戻れんねって」 「里帰りの旅行はようしてたけどな。オカンの一家は原爆の場所から離れた所に住んでたから、直接の被害は無くてみんな達者やったし。ただ、『叔母さん夫婦が放射能混じりの雨にあたって、早う亡くなってもうたんが悔しい』言うてたな。『雨に打たれたらあかん、って当時は伝える手段がなかった』って」 「その頃は黒い雨が危険なんて、誰も思てへんしね」 「そやな、『伝える手段が無かったのが悔しい』ってオカンは危険って知ってたみたいな言い方やったけど、みんな知らんかったことやもんな」 「お義母(かあ)さん時々その話ししてたけど、そん時は必ず言うてたね。ほんとは8月6日にその叔母さんの所にお使いで行くはずやったのに、どこかの学生さんに止められて、ほんで命拾いしたって」 嫁の和美の話しの後に妙子の娘、雪子にとっては孫にあたる 愛子が口を開いた。
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