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「私もおばあちゃんからその話し聞いた事あるわ。長男の大輝が生まれた報告をした時、『さやまだいき』って初恋の人と同じ名前だって。その初恋の人が、おばあちゃんが爆心地に近い所へ行こうとしてたのを、止めてくれた人なんだって言ってた」
「へーその話しは知ってたけど、大輝君と同じ名前なんて知らなかった」
「俺も知らんかった」
「私も」
「じゃあ、子供に大輝って名付けた私にだけ話してくれたのかな。おばあちゃんがその学生さんを好きになった一番の理由は聞いた?」
愛子の問いに、長男の隆、嫁の和美、長女の妙子は三人共に首を振る。
「その彼が日本男子はこうあるべき、とか女子はこうあるべき、みたいに決めつけなくていいって言ったらしくて。その方が自然だって。当時としては有り得ない考え方で、おばあちゃんは、ほんとにほんとに感動したって。だから大輝を生んだ報告した時も、のびのび自由に育ててあげて、って言ってくれた。戦後、中卒で大阪に出て来てそれは大変な時もあったけど、初恋の人といつか会えた時に恥ずかしくないように、そう思って頑張れたって言ってたよ」
愛子の話しを聞いた隆が口を挟む。
「駅舎で会話してたけど、いつの間にかオカンは眠ってしまって目が覚めたらその学生はいなかったって話しだったからさ。俺は内心、オカンが電車待ってる間に寝て、夢見たんだと思ってたけどね。夢にしちゃ、話しの中味が具体的だな」
「しかもその初恋の人がひ孫とフルネーム一緒って、凄い偶然やわ」
「その大輝は今、おばあちゃんが帰りたがってた広島に修学旅行で行ってるの。よく考えたらこれも凄い偶然ね」
「そうか、オカンの代わりに、ひ孫の大輝君が行ってくれてるのかもな」
「そうかもしれない。お母さんもわかってるのかも。とても安らかな顔してる」
「ほんとに」
「大輝は知らずに、ひいばあちゃん孝行してるのかもね」
間延びしていたモニターの線が真っ直ぐな一本の線になる。
モニター近くで待機していた医師が横たわる雪子の脈をとり、胸に聴診器をあてた。医師と同じくモニター横で控えていた看護師が医師に時計を見せる。
医師は頷き、家族へ告げた。
「8時15分、佐藤雪子さん、御臨終です」
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