第1章

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ふと足音が聞こえて大輝は顔を上げた。おかっぱ髪の中学生くらいの女の子と目が合う。女の子はすぐに視線を逸らし、大輝から一番離れた場所に座った。 ーよ、よかったあ。第一村人発見だ。とにかくこの子に尋ねよう。 「あの、ちょっと聞きたい事あるんだけど」 言いながら大輝は女の子のそばに行く。女の子は露骨に怯える様に身体をビクつかせ、手荷物の風呂敷包をぎゅっと抑え込む。 ーそんなあからさまに怖がらなくても、襲ったりしねえ…つーか風呂敷包?それになに、そのダサいズボン…髪型も、一周回ってもダサくね? 周囲の状況も含めてあまりのレトロ感に、大輝は失礼だと自覚しつつ、つい女の子をまじまじ眺めてしまう。 「あ、あの…」 女の子が顔を真っ赤にして大輝をチラ見する。 「あ、ごめんごめん」 ー怯えるというより恥ずかしがってんのか…。男子と話すのが苦手な女子はいるしな。 大輝は一人納得して質問に移る。 「あの、ここ何駅かな?」 「え?」 そりゃえっ?ってなるだろうと大輝は思う。普通、何駅かわかってて来るよな。 「あ、ごめんね。俺東京で、土地勘無くて」 「ああ、疎開の方やろか」 「そかい?」 「ここは安芸飯室です」 「あきいむろ…」 聞いたこともない名前に大輝は不安を募らせ、重ねて聞く。 「住所は?あの、何県になるのかな?」 「広島県です。安佐郡飯室村」 ーとりあえず目的地の広島県内にいるんだ。いつ新幹線を降りた?訳がわからないが、連絡しよう。自分のスマホが無ければ連絡先がわからないけど、泊まるホテルの名前は覚えてる。親に念のためと言って聞かれたから。ホテルは検索すれば出て来るから電話して、恥ずいけどハグれたと言えば先生に連絡してくれるだろう。修学旅行生を泊めるホテルなら、引率教師の連絡先を聞いてるはず。 「悪いんだけどスマホ貸して」 「すまほ?すまほって何やろか?」 「え?いやだから、携帯のスマホ」 「けいたいのすまほ?」 「…スマホ、知らない?マジで?」 ー中学生くらいだろうから、持ってなくても不思議じゃない、でも、携帯を知らない人っているんだろうか? 大輝の周囲に携帯を知らないという人はいない。ばあちゃんも持ってる。芝居とも思えぬ女の子の言葉に、大輝は驚きを隠せず見つめてしまう。 女の子は更に頬を染めて言った。 「ご、ごめんなさい。田舎者で、と、東京で流行ってるもの?」
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