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「流行ってるとかじゃなくて」
ーマジに知らないんだ。田舎だから?いや、関係ないよな、そんな事。
「じゃ、公衆電話どこかにあるかな?」
スマホは鞄に入れたが、幸いに財布とは別に小銭入れをポケットに入れていた。
ー電話さえあれば、ホテルの番号は104で聞けばいい。確か番号案内は104だったよな?うん、きっとそう。
「公衆電話は…広島市内だけじゃ。村で電話を持っとるのは村長さんところだけで」
「村長さんとこだけって、それじゃまるでトトロの世界じゃん」
「ととろ?」
「…それも知らない?」
「ご、ごめんなさい。東京の流行り物は、田舎には中々届かんから」
「だから流行り物じゃなくて、むしろ昔のアニメだよ」
「あにめ?」
「アニメも知らない?」
「す、す、すんません」
「何か、何かおかしいよな…」
「え?」
大輝は足元から何かに絡め取られるような不安が這い上がって来るのを感じた。
元々自分がいたはずの新幹線から目覚めたらこの駅に居た事が一番不可解なのだが、それと同時にさっきから感じている違和感がふいに一本の線で繋がる。
作りがレトロな駅、おかっぱ髪で風呂敷包持った女の子。ダサいズボンと思ったけど、これはいわゆるモンペっていうやつじゃないだろうか…。スマホもアニメも知らない、電話は村長さんところだけ。
「あの、確認したいんだけど」
動悸が激しくなる。でも、聞かなければ。
「今日、何日だったけ?」
「8月6日ですけど」
「何年の?」
まさかまさか。
「昭和20年の8月6日です」
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