第1章

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「昭和20年8月6日!」 大輝は無意識に叫んでいた。 「何でそんな昔に俺はいるんだ…」 ーいや、それより、昭和20年って、8月6日ってあの日だろう! 修学旅行の事前学習で聞いた日、広島に原爆が落とされた日。 「ここ、広島なんだろ?原爆落ちたんじゃ…」 「は?」 ーいや、結構田舎みたいだから被害がないのかも。でも、相当な出来事のはずだけど…。 そこで大輝は駅舎の中の時計に気づく。それは短針が7時、長針が20分過ぎを指していた。 「今からか?」 ーそうか、まだなんだ。今からだ。ここは、ここは落ちたとこからどの位置なんだ? 「あの、今からどこに行くつもりだったの?」 「30分の電車乗って横川に行きます」 「それってここより原爆ドームに近い?」 「はあ?」 ー事前学習で習ったぞ、何て言ってた?戦争前の名前…そうだ! 「産業奨励館!広島市に産業奨励館ってあるだろう?」 「は、はい去年に閉鎖されたけど、その建物はあります」 「その建物は、君が行こうとしてる横川と今いるここと、どっちが近い?」 「そりゃ横川の方が近いです」 「じゃあ行ったら駄目だ!」 「な、何言うてるんですか?さっきから、ずっとおかしな事ばかり。ウチは横川の叔母さんの所へ母に頼まれた届け物があるんじゃけえ」 その時電車が近づく音が聞こえ始めた。 「来た、あれに乗ります」 「駄目だって!」 「どうしてそげな事、見ず知らずのあなたに言われんといけないんですか?」 「怪しいもんじゃないよ。俺は狭山大輝、大輝です。君、君の名前は?」 「杉田雪子ですけど」 「ゆきこさん、ゆきちゃん、お願いだからあの電車に乗らないで」 「そげな事言われても」 電車が近づく。 雪子がその方向を見る。 駄目だ!この電車に乗ったら、絶対に駄目だ!
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