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「キスが、したい」
その言葉を口にした瞬間、自分の呪縛から解放される気がした。
しかしとて、その代償は自分が1番大切な存在、幼馴染兼友人兼クラスメイトの市野 遼太郎を失ってしまうかもしれない、ということでもあった。
小さいときから、といっても生まれる前から2人は一緒だった。
浩介と遼太郎の母親同士の仲がとても良く、高校の同級生で10年来の親友でもあった。
結婚してからもその仲が崩れることもなく、今現在もとても仲良しなのは変わらないが、それにプラスして家族ぐるみでの付き合いとなっていた。
そんな母親たちが高校生のときに、他愛もない恋愛話での約束事が、今の自分達の幼馴染兼友人兼クラスメイトの関係を作り上げていた。
"もし私たちが結婚して子供を産むときがあったら同い年の子供が欲しい! 一緒の学校に通わせたい!"
そんな突拍子もない約束事が、今現在も進行形で継続していた。
小さい頃は学校に行くのも家に帰るのも一緒、スイミングスクールやそろばんの送り迎えもどちらかの親がしてくれていたので夜ご飯も一緒に食べていた。一緒にいることが当たり前で逆に何とも思わなかった。実は兄弟なんじゃないかとさえ思っていた。
同い年の子供がいると、母親同士の都合がよかったのだろう。もともと母親同士でお店をやるのが夢だったため、その夢が実現してからは家も隣同士でわざわざ作ったのもあり、交代でそれぞれの母親が浩介と遼太郎の面倒を見ていてくれていた。もちろん父親も。
今となってはしっかり理解している。兄弟ではなく、幼馴染で友人でと、もしかしたら家族に近い、存在だと。
側から見たら少し変わっているかもしれないが、真崎家も市野家も特にこの関係を不思議に思うことはなく、親はむしろあっけらかんとしている。それはずっと家族同士で仲が良いことをとてつもなく、喜びとしているから。そんな親を見てきたので、息子たちも思春期ぐらいは少し躊躇ったが、今となってはそれもそれでよかったと思える。
何にも変えがたい関係があるということが、どんなに心強いことだろうか。
さらに父親と母親が2倍なんてお得感もあるし、頼もしい限りじゃないか。
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