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「お、りょーちゃんおけーりー」
いつのまにか隣のクラスから戻ってきた遼太郎が、自分の真横に立っていて、慌てて誰にも知られたくない思考を放り投げた。
「りょーちゃん、おかえり。辞書借りれた?」
「おー、借りれた借りれた。隣のクラスのやつも次に使うらしくて、わざわざ隣の隣まで行ってきた」
「りょーちゃんが忘れてくるのがいけないんだよ」
「たしかに」
遼太郎は辞書片手に真面目な顔でそう言い、浩介の後ろの自分の席に戻ると、授業の準備を始めた。
そろそろ細谷も自分の席に戻るかと思ったが、遼太郎と浩介の間に椅子を引いて移動をしてくる。
「なーなー、りょーちゃん」
しまった、細谷にはっきりと断るのを失念していたと、浩介ははっとして2人を交互に見比べる。
彼の表情はまるで何かを企んでいるかのようで、若干声は弾んでいる。
「なに、細谷」
「こーちゃんにはもう話したんだけど、今度の土曜日ひまじゃない?」
「部活あるけど」
「夜だってば!2人とも同じこと聞くし!」
「なに、どしたわけ?」
「今週の土曜日さ親睦会もとい、コンパがあるんだけど、一緒に行ってくれない?」
これは本当にまずいことになったと浩介の心中は穏やかではない。細谷に関してはもうコンパと認めている。
自分達ももう、高校生だ。色んなことに興味が出てくる年頃だ。もし遼太郎がそんな所に行って、もし遼太郎に彼女でもできてしまったら、と一瞬にして不安が浩介の頭と心を埋め尽くしていく。
遼太郎に話される前に、しっかり断っておけばよかったと後悔しても遅い。遼太郎のことだから断ってくれるだろう、と浩介は高をくくっていた。
「お~、...いいよ。別に」
その言葉に思わず目を見開いた。細谷も同様に驚いていた。
「やっぱダメだよね~、って...え、いいの?」
「ちょっ、りょ、りょーちゃん!?」
「お前も行くんだろ?」
遼太郎にそう言われて、行かないよと返事をする前に、細谷が先に口を開いた。
「もちろん!」
「俺は行くなんて一言も言って...」
「こーちゃんも行くよね?」
「.....っ!」
2人に視線を向けられて、思わず黙ってしまった。
後悔、という言葉でいっぱいで理解が追いついていかない。
そのまま浩介は諦めたかのように、わかったよ、と小さく呟いて、項垂れた。
すると、授業が始まるチャイムの音が鳴り響いたのだった。
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