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ずっと綾樹と一緒に歩んできたのに、最近の彼はますますその男ぶりに磨きがかかっている。
「少しはこの肩の負担も少なくなるといいのだが」
耳元で囁かれる嬉しそうな、そしてほんの少し心配そうな綾樹の声。
彼は、桜井の気持ちをまだ知らない。
だけど、今はまだ綾樹への気持ちを伝えられない。
まだ、彼をちゃんと支えるだけの力が、桜井にはないから、真面目に頑張る綾樹を自分の気持ちで混乱させるわけにはいかないのだ。
ちゃんと綾樹の隣で歩いていけるようになるまでは、この恋は我慢すると決めている。
今は恋だ愛だにうつつを抜かしている場合じゃないのだ。
なのに……「好き」が止まらない。
「ありがとうございます」
桜井はぽてっと赤くなった顔を隠すように、少し俯いた。
が。
「俯くな。桜井の顔がよく見えない」
綾樹の手が桜井を頭を両端から掴んで、無理に鏡に向けさせる。
「あ、あやき……」
「うん、私の思った通りだ。桜井にはこのフレームが絶対に似合うと思っていた」
鏡に映る綾樹が満足そうに笑う。
もともと彼は、笑うと優しい顔になる。
彼の本質は心配性で、思いやりのある優しい男だというのを桜井は知っている。
だがいつしか綾樹は笑わなくなり、そのまま大人になってしまった。
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