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ブリリアント社では、昼休みは12時から1時までの1時間だ。
ブリリアント社の食堂は少し変わっていて、社員以外でも利用が可能だ。
製薬会社の食堂という事もあり、カロリーや塩分などにも気を使っている健康食をメニューに取り入れているため界隈では有名になり、ワイドショーでも取り上げられた。
そのため、お昼に限り、社外の人間にもサービスを行っている。
フロアの人間も一斉に食堂へ流れるため、どの階のワーキングスペースもこの時間だけはシンとする。
そんな中、桜井は部屋に残って書類を仕上げていた。
昼食をとる暇なんかなかった。朝、出勤するなり聡樹から内線が来て、至急資料を作れと来たものだから、それにずっとかかりっきりだ。
他の同僚や先輩社員から「ほかの業務も抱えているんだし、どだい無理だって」と口々に言われた。
聡樹がこんなふうにいきなり仕事を頼むのは常で、そのたびに指示を受けた社員たちは、仕事の優先順位を見たうえで、早々に聡樹に「少し遅れます」と連絡を入れていた。
実際、聡樹もその辺は現場の仕事量を予想し、自分がそれを飛び越えていきなり話を割り込ませた自覚があるようで、「だろうなぁ、難しいよな」と少しの遅延はあっさり容認してくれるのだ。
先輩社員はせわしなく手を動かす桜井を見かね、缶コーヒーを手に桜井を見舞い「休めよ」と注意する。
「桜井、いいから飯を食って来いよ。昼休み終わっちゃうし、ここでいったんリフレッシュしないと仕事効率が落ちるぞ」
「お気遣いありがとうございます。でも2時までにこれを社長に届けないと」
「コーヒーを飲むくらいの時間はあるだろう? 5分でいいから休憩入れろ」
「この書類さえ出してしまえば、あとは少し余裕ができますので、その時にまとめて休憩を取らせていただきます」
桜井は先輩社員にコーヒーと気遣いの礼を述べ、また作業へと戻る。
あと少しで終わりそうだが、それでももう少しかかる。聡樹が提示した時間は午後2時。
(早く、早く終わらせないと)
気ばかりが焦る。ぼやける目を必死に見開いて、目薬をさしながらディスプレイと格闘するも、肩が首が重怠く、頭痛まで現れた。
いつものことだが、頭痛が出ると吐き気がしてくる。
(いけない、薬飲まないと)
無意識に右手がディスプレイ脇に置いてある解熱鎮痛剤にのびる。
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