PRESENT

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 だが、箱を掴んだその手が、誰かにがしりと捕まれた。 「え?」  驚いて自分の手を掴んでいる人物を仰ぎ見ると、そこには相変わらず不機嫌そうな顔の綾樹が立っていた。  鍛え抜かれた肩幅の広い体躯、高層ビルと揶揄される身長、そして不機嫌が服を着て歩いているという仏頂面が、さらに眉間に皺を刻んでいる。いつにもまして機嫌が悪いようだ。  こんな綾樹と出会い頭で目が合ったら、心臓が止まりそうな恐怖と、痛くもない腹を探られるどころか、捌かれる気分になるだろう。 「あや……いえ、副社長。どうしたんです?」 「副社長」と桜井が言ったのを機に、昼休みでダレ気味のフロアに一気に緊張が走り、全員の視線が桜井に集中する。 「副社長、何か御用でしょうか?」 「用がなければ来てはいけないか?」  綾樹は地を這うような低い声で返事を返してきた。今日は声までなにやら不機嫌だ。  入社2年目の副社長は、すでに社内で恐怖の対象となっている。  当初は跡継ぎでそのポジションに着いただけの役立たずと陰口も叩かれていたが、文句を言う輩に対しては、仕事できっちり成果を出して黙らせてきたので、誰も綾樹のことを「ボンボン2世」などと言わなくなった。     
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