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第1部
ヘッドライトの光が、アスファルトの上に立ち尽くす私に突き刺さる。
ああ、本当に体が動かないものなんだ。
私ってこんなことで簡単に死んじゃうんだ。
……私の人生、短かったな。
次の一瞬に待ち受けている死の光景が頭を埋め尽くす。
それまでのごくごく短い時間の中で、自分の人生が目の前を駆け巡ってゆく。
──そして、最後の最後に思い出したのは。
「……キミは、本当に」
最後の最後で、私は気づいた。キミに、奪われたもののことを。
その刹那、とてつもない轟音が、私の体を粉々にして貫いていった。
***
雪のちらちらと舞う大きなスクランブル交差点。
眼の前の幅の広い横断歩道を、何台もの車が絶え間なく通り過ぎていく。
僕が、どうしてこんな場所にいるのかわからなかった。ここに来るまでの記憶が抜け落ちてしまったような。
突然目の前に交差点が現れた、というのが今の感じている感覚に一番近いかもしれない。どうやって、なぜ、自分がここにいるのか全くわからなかった。
ふと自分の右手の方に目をやる。そこには小さな花束が握られていた。
勢いよく通り過ぎていく車の起こす風で、白い小さな百合の花がちらちらと花弁を揺らしていた。
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