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突然の出来事に思わず言葉につまる。
「ごめん、いきなりそんなこと答えられるわけないよね」
彼女は笑いながらまた一口コーヒーを口にする。
「どうしていきなり道路に飛び出しなんかしたの? これなら答えられる?」
僕は眼の前の彼女の存在がわからなくなりつつあった。
自分を助けてくれた命の恩人とも言える人にこんなことを言われるとは思っていなかった。
「自殺なんかじゃ、ないです。誰かに背中を押されて」
「へえ」
彼女はちらりと腕時計に目をやる。どうやら信じてはいないようだった。
「ま、それならいいや。自殺だったりしなくて。余計なことしたようじゃなくてさ」
「余計なこと?」
「自殺するような人助けちゃまずいじゃない。死にたい人は死なせてあげないとね」
「はあ……」
「うそうそ、冗談よ」
妙なことを言う。それでも彼女の表情はどこか飄々としていた。
「ま、助けてもらってありがとうの一言も無いからてっきり自殺かと何かかと」
彼女は意地悪そうな目で僕を見る。
「そんな、いや……ごめん。ありがとう……ございます」
「ま、こんな花束片手に自殺なんてのも妙だよね」
彼女は机の上に置かれた小さな花束を手に取る。
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