第1章

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 一  それが嘘ではないと判明した時、人間は二種類に分かれた。  変わらず日常を送る者と、日常から逸脱する者。  私、「土屋このは」は、前者だった。  理由はただ一つ。日常から離れる術など、知らないから。  平日は学校に行き、休日には家で本でも読みながら過ごす。それ以外にどうやって生きていればいいのかを、知らないから。  狭い世界に生きていると、自分でも思う。  こんな時になっても、目覚まし時計の音で起きて、登校して、決められた時間には教室で席に付いているなんて事を繰り返している。 「ねえ、そろそろヤバくない?」 「B棟の方は、もう三人くらいしか残ってないらしいよ」 「やっぱ、逃げた方がいいのかな……」 「でも、どこに?シェルターは、もう受け入れしてないんでしょ?」  随分と人の減ってしまった教室で、クラスメイトがひそひそと話をしているのが聞こえた。  直後、がらがらと音を立てて、若い男の先生が教室へと入ってくる。  三年の担当だった先生も全員いなくなってしまったので、代わりに俺がホームルームをやることになった。人数は少なくなってしまったけれど、頑張ろう。  そんな事を言っている先生に、胸中で「何を頑張るんですか」と尋ねて、大きく開いた窓に視線を投げる。  髪も染めていなければ化粧も知らない、公立高校に通う地味な女子高生の気だるそうな顔が反射している。ピントをズラせば、その向こうには赤く染まった景色が広がっている。  ヤバい。なるほど確かに、あの真っ赤な空は、そう形容するのが一番分かりやすい。  世界が滅びる。  誰が言い出したのか、誰が招いたのかも分からないが、どうやらそれは避けようのない決定事項らしい。  私が最初に近しい噂を聞いたのは、テレビ番組だっただろうか。毎週水曜日のゴールデンタイムに流れている、オカルトも取り扱う娯楽番組の一コーナーで、大真面目にコメンタリーたちが語っているのを、どうでも良いと思いながら聞いていた。  似たような話題が次第にあちらこちらで聞こえるようになっても、同じだった。
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