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「まずは涙を止めようか。文香、おまえの
捜し物はこれだろう?」
彼が目の前に差し出したのは、あの日私が
捨てたはずの指輪。
驚きすぎて、本当に涙が止まった。
「なんで隆司が持ってるの?」
「守衛室に社用車のキーを取りに行った時に、
たまたま話しているのを聞いたんだ」
警備員達が珍しい取得物の話をしている
ところに、偶然居合わせた隆司。
興味本位で見せてもらうと、それが私に
贈った指輪だと気づいた。
詳しく話しを聞くと、警備員はある女性を
中庭から追い出したものの、様子が変だった
ことが気になり、翌朝同じ場所に行ってみた
という。
そして、この指輪を見つけた。
隆司はすぐに警備員と話をして、指輪を
引き取ったというわけだ。
道理で。探しても見つからないはずだ。
「今夜話したかったのは、このことだ。
外した理由はわからないが、俺は単に
落としたと思ってたんだ。それがまさか
捨てただなんて。予想外過ぎてびっくりだ」
「ごめんなさい……」
合わせる顔が無くて、深く、深く
項垂れる。
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