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愛されていると思っていた。
隆司はいつだって、私を大切にして
くれていたから。
今日だって、メールで済むのに、
キャンセルを直接伝えに来てくれて。
その他にも、意地っ張りな私のたくさんの
我が儘を許して、甘えさせてくれた。
でも、それは私の勘違いだったみたいだ。
細谷さんのお腹の赤ちゃんは三ヶ月。
あの時、私はすでに彼に裏切られていた
ことになる。
素直じゃない私に嫌気が差した?
最近のデートを何度もキャンセルしたのは、
彼女のためだったの?
いろんな理由を考えてしまう。
「バカね。今更それが何だっていうの!」
隆司はたった今、細谷さんを選んだ。
それがすべて。
植え込みに向かってもう一度、大きく腕を
振りかぶった。
その時、
「誰ですか、あなた。こんな所で何を
してるんです?」
「え、あっ!!」
後ろから大声で誰何され、振り向いた
拍子に指輪を取り落とした。
地面に落ちたそれは、弧を描きながら
転がっていく。
「ここは夜間立ち入り禁止ですよ。早く出て。
もう施錠しますので」
「でも、待って。私……」
「さあ、早く。閉め出されても良いんですか!?」
警備員が、容赦なく私をドアへと追い立てる。
その間も指輪を目で追い続けたけれど、暗闇に
紛れてとうとう見えなくなってしまった。
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