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手渡された資料をパラパラと捲る。と、
気になるものを発見して手が止まった。
注意書きと思われる付箋が一枚。
三枚目に貼ってあったそれは、仕事上の注意
ではなく、極めて個人的なことについての
ものだった。
またか。と、心の中でため息を零す。
こんなことも、もう慣れっこで怒る気にも
なれない。
だって約束をドタキャンされるのは、
今月に入ってこれで四回目。
その今月も、始まってからまだ二週間しか
経っていないというのに。
「わかりました。了解です」
「すまない」
仕事なら仕方がない。諦めよう。
すぐに返事を返すと、眼鏡の奥の彼の目が、
微かに細くなった気がした。
「まだ何か?」
「いや、じゃあよろしく」
気になって聞き返すと、彼はすぐに
目を逸らしてしまった。
ドアへと向かう隆司の背中を、何人もの
女子社員の目が追いかけていく。
「良いなあ、文香さん。私も御手洗さんから
ご指名されたいです」
「あら、野間ちゃん。ご希望なら譲るわよ?」
「いえ、そんな!言ってみたかっただけです。
私が文香さんの代わりなんて無理ですから」
はい、と書類を差し出すと、羨ましがった
後輩はぶんぶん首を振って椅子ごと
後退って行った。
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