600人が本棚に入れています
本棚に追加
まったく調子が良いんだから。
とまあ、彼の周りはいつもこんなふうだから、
私達の付き合いは秘密だ。
だって、バレたら私の身が危ないし、
無用なトラブルは避けたい。
こっそりと彼の姿を見送り、右手の薬指に光る
細身の指輪に視線を落とした。
これは二ヶ月前の誕生日に、隆司から
贈られたものだ。
彼が左手の薬指に付けてくれたのを、私が
右手に付け替えた。
隆司はそれが気に入らない様子だけれど、
何も言わない。
なぜ私だったんだろうと、今でも思う。
どんな美女や才女も選り取り見取りのあいつが、
気が強くて可愛げの無い私を恋人にしたがった
のは。
ただ、付き合ってみると意外にもいろんな部分で
相性が良くて、その証拠に今まで大きな喧嘩も、
問題もなかった。
強いて言えば、最近のすれ違いくらいだろうか。
「はぁ……」
デートのことは諦めて仕事を再開したけれど、
どうも気分が乗らない。
今日こそはと思っていただけに、残念に
思わずにはいられなかった。
こんな調子じゃ、今日のノルマも終るかどうか。
そういえばさっき隆司から預かった仕事、
あれも確認しておかなくては。
再度依頼を読み返す私の目つきが、
鋭いものに変わっていく。
付箋の後に、別の指示があることに
気づいたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!