意地っぱりな薬指

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最新の見積もりに加えて、過去十年の 取引データの抽出? こんなの、明日の朝から始めたんじゃ 間に合わない。 これでもう、今日の残業は確定だ。 隆司のヤツ、デートをドタキャンした挙げ句、 こんな厄介な仕事を持ってくるなんて! 机に書類を叩きつけ、私は背もたれに 深く沈み込んだ。 「お、高橋さん、残業する?だったらついでに これも手伝ってくれないか?」 「は?そんな余裕は無いですよ」 いつまでも落ち込んでいても仕方がない。 気持ちを切り替え、仕事を再開させると、 いつから見ていたのか、課長が追加の仕事を 振ってくる。 普段は飄々としているのに、以外に細かく 課の状況を見ている人だ。 役職者の中でも、私はこの人が一番の くせ者だと思っている。 「まあまあ、そう言わずに。細谷さんが 早退したから遅れてるんだ。頼むよ」 「ああ、そっか。細谷さん……」 そう言われて、空いた向かいの席を見た。 向かいの席の細谷さんは、一年上の先輩で、 穏やかで気配り上手な経理課の華。 彼女が急な体調不良で早退したために、 その分の仕事が課長の席に積み重なっている。 「ああもう、わかりましたよ。やります。 やらせていただきます」 こうなったらやってやろうじゃないの! 半ばやけくそで答えて、課長からファイルを 受け取った。 この時、私は余計なことを引き受けず、さっさと 自分の仕事を終らせて退社するべきだった。 そうすれば、後でこんな苦い思いをすることは なかったのに───
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