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「私……妊娠しているの」
その衝撃劇的な言葉が耳に入ってきたのは、
資料室にファイルを戻している最中の
ことだった。
残っていた仕事と隆司からの依頼、その上
課長に頼まれた入力作業を終えたのは、
九時近く。
空きっ腹を抱えて片付けをしていると、
人の気配を感じた。
私と同じように、誰かが資料を戻しに
来たのだと、気にせずに作業を続けていた
ところに、聞こえてきたのがこの衝撃の台詞。
びっくりして危うく持っていたファイルを
取り落とすところだった。
私がいることに気づいていないのか、
『誰か』の話は続く。
「今日病院に行ったの。三ヶ月だって。
……ごめんなさい。迷惑をかけたくなかったの
だけど、どうしようもなくて」
この時点で気づいた。
この声の主は、早退したはずの細谷さんでは
ないだろうか。
そういえば、今日の早退の理由は体調不良。
不調の原因は妊娠のせいだったんだ。
それにしても、早退した彼女がなぜここに?
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