縁のポートレイト:混濁

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縁のポートレイト:混濁

 村井 昭彦(むらい あきひこ)は、山道を歩いていた。  舗装されてはいたもののアスファルトはかなり古く、そこかしこが毛羽立つように荒れて白っぽくなっている。  遠くで、誰かが何かを話している声を聞いた。 「……し…………ね」 「…?」  昭彦は声がした方へ顔を向けた。  しかし、道路脇に生え放題の野草が視界をふさぐ。  それらをかき分けようとまでは思わないのか、彼は首をかしげただけでまた正面を向いた。  直後、新たな声が聞こえてくる。 「………で………………そう……」 (出そう…? いや、そう言ってるわけじゃないんだろうとは思うけど)  断片的に聞こえた声をただ組み合わせても、本来の意味から外れた言葉にしかならない。昭彦もそれはわかっているのだが、そうせずにはいられなかった。  やがて、声が聞こえなくなるとともに別の変化を彼は感じ取る。  というより、なぜ今まで気づかなかったのかと思うようなことが起きた。 (え…?)  昭彦の前方や後方に、いつの間にか他の人々がいた。  人々は彼と同じように歩いており、靴底とアスファルトがこすれる音も聞こえる。     
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