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まちがいでんわ
「こんにちは、もえかです」
午前六時。
部屋の中は、わずかな光しか届かない水底のように仄蒼くて、違和感すら覚える。
それでなくとも目覚まし時計とは違う音で叩き起こされたのだ。起きたての私の喉は満足に言葉を出せずにいた。
「もしもし、もえかです。こんにちは」
耳元を擽るその声は、やや舌っ足らずな愛らしさを含んでいて、私の不機嫌さなど一蹴してしまうほどだ。
「……えーっとね」
起き抜けのつぶつぶした声に驚いたのだろうか。受話器の向こうで小さく息をのむ気配がして、すかさず、がさごそと何かが擦れる音がする。
くぐもった電話の向こう側がにわかに騒がしくなり、私もまた、どうしたものかと思案に暮れる。
これはいわゆる間違い電話だ。
しかも、こんな早朝になんて非常識な。
相手が大人なら罵倒して叩き切っているだろう。それでなくとも最近の間違い電話は謝るどころか、名乗りもしないのだから。
だけど、この電話の相手は子どもで、しかもちゃんと名乗ってもいる。
もえか、と。
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