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受話器からなおも聞こえるごそごそという音は、ちゃんと、電話口を手で塞いでいるからだろう。親の躾の賜物だろうか。
世の中の阿呆共は、もえかちゃんの爪の垢を煎じて呑めばいい。
電話の向こうで別の声も聞こえだした。その第三者は、何やら彼女に対処法を授けているようだ。
「あのぉ、えーっと。とのまちのつださんですか?」
彼女の相手は入院でもしているのだろうか。『殿町の津田さん』と言えば、津田総合病院の通称、この辺のライフラインを一手に担っている。
「ごめんなさいね。ここは母衣町だし、私は、鈴井です」
いつものキツイお局モードは何処へやら。ゆっくりと柔らかく答えている自分に、何より私自身が吃驚している。
「あのぉ……、あさは、でんわがやすいので、かけました。ごめんなさぁい」
それはお気の毒さま、と。いつもなら嫌みの一つも吐き出すのだろうが、今、姿見に映っているのは、甘々な笑みを浮かべた私だ。
なんだ。泣く子も黙るお局も、まだまだ優しい赤鬼じゃないの。
「今度は番号、間違えないようにね。でも、ちゃんと謝る事ができて、偉いね」
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