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電話の向こうから、上擦ったようなありがとうございます、が聞こえて、受話器を置こうとしたその時。
「さっき、まちがえました」
「……え?」
彼女の突飛な言葉に、またしても好奇心をくすぐられる。
「間違い電話のお詫びなら、さっき聞いたけど?」
彼女は番号以外に何を、まちがえたのか。
「えと、おはようございます」
なるほど。言われてみれば確かに、朝に『こんにちは』は間違いだ。
「はい、おはようございます。さぁ、早く電話をかけなおさないと、大変よ」
え、え? と、可愛い戸惑いの声がまたしても耳を擽った。鏡の中の私の口元は、堪え笑いで歪みっぱなしだ。
「だって、高くなっちゃうよ。電話」
小さな感嘆と共に、薄情なほどあっさりと電話は切れた。
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