第10話 小人の新しい王様

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 夕食後の休憩を静かに過ごした後、私たちはシャワー室でシャワーを浴びるように言われた。備え付けのジェルを付けて、いつもより念入りに身体と頭を洗ってください。お化粧を落として、歯も磨いてください、と係の女性が言う。私は言われた通りにした。シャワー室の壁に備え付けられていたジェルは、薔薇の花のようなよい香りがした。化粧を落とす。歯も磨く。髪を乾かす。済んだ方から寝室へ移動します、と言われた。お荷物の持ち込みはできません。寝室に入ると明日の朝まで施錠されてしまいますので、ご家族への連絡等ありましたら今のうちに済ませて、スマホやスマートウォッチ、ネックレスや指輪などのアクセサリ等々、全て外して待合室のロッカーに入れて、身体には何もつけないで、身一つで寝室へ移動します。私は言われた通りにする。ネックレスと指輪を外して、スマホとスマートウォッチもバッグに仕舞ってロッカーに入れる。これらのものは皆さんの信心を現世へと引き戻してしまい、その結果地球の神を遠ざけてしまいます。ですから、懐妊の儀からなるべく遠ざけておく必要があるのです。などなど、もっともらしい説明が続く。  白装束の女たちがぞろぞろと寝室へ向かう。寝室は地下にあるのか。長いエスカレーターが暗い地下室へと続いている。地下から冷たい風が吹き上がってくる。もしかして寝室が寒かったら嫌だな、と思った。毛布はあるのかしら。そんなことを思っていると、長い長いエスカレーターが終点に辿り着いた。そこは巨大な部屋だった。大きな扉がある。これは昔ノーマルタイプが使っていた地下室か。その青い大きな扉の下の方にスモールタイプ用の小さな扉があって、私たちはその扉の前で履いていたスリッパを脱いで裸足になった。順番に入ってください、と係の女性が言う。順番とは、最初に受付で渡された番号のことだ。私は四十番。白装束の女たちが行列になって、一人一人その扉の中へ入っていく。入る時に係の女性が参加者の着衣をチェックしている。持ち込み物が無いか見ているのだろうか。私は順番を待った。  香の香りが漂っている。なんだろう。嗅いだことのない香の香り。地下室の中は暗かった。真っ暗に近い。目が慣れるのに時間がかかる。壁の所々に蝋燭の火のような薄い明かりが灯っている。その他は暗い。足元は畳で、進んでいくと布団が敷かれている。まるで修学旅行の旅館みたいに。歩いていくと私の布団があった。四十番目。私の布団。そしてそこに、一人女性が立っていた。
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