第10話 小人の新しい王様

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 「桜井さん、そろそろ行きますよ。外出許可票書いた?」課長席を立ちあがって、角さんが言った。朝デスクトップに会議案内の通知が届いていた。通知には昼から午後にかけて会議だと書いてあった。外出か。外で会議なのか。私は角さんの後についてオフィスを出た。「どこへ行かれるのですか」先を急ぐ角さんの背中に問いかけてみる。「調査だ」角さんは言う。「調査に行く。茨城まで行く」茨城。茨城か。茨城というのは、カルト・アースか。カルト・アースの総本山、通称「仏」か。私が昨日まで宿泊していた所か。角さんはどんどん歩いていく。まだお昼を食べていない。お昼はどうするんだろう。角さんは振り向かない。歩いていく。事務所から自動搬送機で数分の駐機場に、二人乗りのドローンがチャーターされていた。私たちが乗り込むと、角さんがコンソールパネルに行き先をインプットする。ブルンと羽を回転させ、小型ドローンは駐機場を垂直に離陸した。  離陸するとすぐに、角さんはパチパチとコンソールに並ぶスイッチを切っていった。それはドローンと地上を結ぶ通信回線であり、ドライブレコーダーであり、通話マイクだった。  「これでよし」と角さんは言った。  私は驚いた。角さんはすぐさま運転席のシートベルトを外して、助手席の私に覆いかぶさって来たのだ。  「な、ちょ、ちょっと、角さん、やめ、やめてください」  角さんはやめない。やめないどころかもっと力を込めて、抵抗する私の腕をどけて胸を揉んだ。  嫌。私は思った。嫌だ。嫌。  「どうして。なぜ抵抗する」  角さんが言った。  そうだ。なぜだろう。なぜ私は抵抗するんだろう。私はこれまで何度となく角さんに抱かれてきた。私は角さんが好きだ。ただでさえ時間が無い中で、角さんが私を相手にしてくれる。エリートでキャリアの角さんが。それだけでもありがたい。うれしい。私は基本的に、いつもそう思っていた筈だ。なのに。  「だって。こんなところで」  そうだ。こんなところでこんなことをするなんて非常識だ。だいいち恥ずかしいではないか。そう思いついたので、そう口に出してみた。  「ごめん。すまない。わかってる。こんなところでごめん。だけどな、ミキ。今日はここしか時間が取れないんだ。俺も考えたんだ。ドローンの中なら安全だ。誰の邪魔も入らない」  角さんの腕に更に力が入る。ブラウスの上から私の胸が揉みしだかれる。  そこまで考えてくれたんだ、私のために、と私は思った。それはありがたい。ありがたいことだ。角さんにここまで考えてもらえるなんて。ありがたい。でも。私の腕は抵抗を止めない。私の腕は抵抗し続けている。
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