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「なぜそれを早く言わない?」
仕事帰りにラブホテルを目指す自動搬送機の中で二人きりになって、角さんは私の報告を聞いてそう言った。苛立っているのがわかる。ごめんなさい、と私は言った。角さんが折角夜の時間を空けてくれたのに。私生理になっちゃって。ごめんなさい。
「いやそうじゃなくて。お前は妊娠するかしないかの瀬戸際にいたんだろ。懐妊の儀が成功したかしないかの瀬戸際に。結果がわかったら報告するだろ。普通」
はい。そうです。ごめんなさい。消え入るような声になってしまった。私は自動搬送機の中で小さくなっていた。心配してくれていたのか。私を。角さんは。
「しかしミキ。俺はそれを聞いて複雑な気持ちだ。半分以上はうれしい。誰か他の男の種を受け入れなかったお前を、俺は嬉しく思っている」
自動搬送機が私たちを運んでいく。窓の外に第二東京のビル街の夜景がゆっくりと動いてゆく。
「ミキ。お前は変わったな。一言で言うと淫乱になった。淫乱な女になった。誤解するな。俺は淫乱な女を嫌いな訳じゃない。むしろ好きだ。俺が悔しいのは、俺が俺自身の手で貞淑だったお前を淫乱な女に変えることができなかったことだ。それは悔しい。とても悔しい。だが仕方ない。俺がお前をあそこに行かせたんだ。俺の責任だ。悔しいが仕方ない。お前は懐妊の儀へ行った。そして淫乱な女になって帰って来た。そしてその後も俺を求めてくれる。それは嬉しいことだ。しかし。この変わりようはなんだ。凄いという他はない。お前がこんなに変わってしまうとは。どういうことだ。どういう儀式だったんだ。懐妊の儀とは。どういう洗脳をされたんだお前は。恐るべし。カルト・アース」
角さんは前を向いたままそう言った。今までずっとそう感じていたんだろう。角さんの独白だった。
「そして俺が更に恐ろしいのは。俺も淫乱になっているということだ。この俺も。あの儀式以来お前を相手にして、確実に淫乱になってしまっている。どういうことなのか自分でもわからない。強いて言えば本能だ。動物としての、雄としての、本能が呼び覚まされてしまったようなかんじなんだ。実際こうしている今も俺はお前を抱きたい。抱きたくて仕方ない。抱いても抱いても足りないんだ。俺は漲っている。漲り続けている。今こうしている間にも俺は理性を失いそうだ」
私は後ろから角さんの左手を握った。角さんが不安に思っている。私はこの人の手を握らなければ。そう思った。
「このままではいかん。このままではどんどん洗脳が進んでしまう。雄と雌の本能が呼び覚まされ、スモールタイプが全員淫乱になっていってしまう。カルト・アースに全員が洗脳され、カルト・アースの言いなりになっていってしまう。それは防がなくてはならない。それが俺達小人化推進部渉外課の重要な仕事なんだと思う」
そこまで言うと角さんが私を振り返った。
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