第10話 小人の新しい王様

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 「リピートしてほしい」  角さんが言った。私は耳を疑った。角さんは反対すると思っていたからだ。懐妊の儀のリピート。でもそれだけではなかった。角さんの話には続きがあった。  「消防庁から図面を取り寄せたんだ。仏の防災建築図面。そしたらな、図面上、地下室は無いんだ。図面に書かれていない。あそこはノーマルタイプの建造物を特別許諾で譲渡使用してるところだ。譲渡許諾する時に消防庁が立ち入り検査をして図面確認する筈なんだがな。お前の連れ込まれた地下室は無い。無いことになってる。これでまず少なくとも一件、防災上の建築基準法違反の容疑が成立する。その他に医療処置義務違反だの麻薬取締法違反だの、容疑は幾らでも成り立つだろう。だからな、警察庁と組むことにした。警察庁の機動部隊を投入する。参加者が地下室に入ったタイミングで突入して証拠を押さえる。だからお前は地下室にいて他の参加者を避難誘導してくれ。銃火器を使うつもりはない。あくまで調査名目で強制突入させる」  ああ。さすがだ。と私は思った。角さん。角さんの目。闘う男の目をしている。この人。やる時はやる。さすがだ。さすが角さんだ。  「ミキ」  角さんが私の名前を呼んだ。  「俺はお前を教祖に抱かせたりしない。もう二度と。安心しろ。ただな、今回の作戦は安全だとは言い切れん。中に本当に榑松がいたとして、奴が暴れたりしたら危険だ。だから、他の人には頼めないんだ」  角さんはそう言って私を見た。そして私を引き寄せ、抱き締めてくれた。自動搬送機の中で。  うん。わかった。私は言った。そして角さんを抱き締め返した。自動搬送機に付いている監視カメラが目に入っていた。でもそれがどうした。そう思った。私の中で何かが吹っ切れていた。角さんは私を必要としてくれている。私は角さんのお役に立つことができる。それが私の本望だ。そしてその上、角さんは私を大切に思ってくれている。うれしかった。それがうれしかった。そうか。それか。と思った。それだったか。それを欲しかったのか。私は。
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