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夏休み延期 180808
2.5mを越える高さから繰り出されるファーストサーブ。これが俺を苦しめてきた。
来る。鋭い打球が俺の足元をすり抜けて行く。アウト。ギリギリアウトだ。よかった。
世界テニス大会無差別級準決勝。フルセットで迎えた最終セット。奴の1球目はアウトだった。ついてる。
セカンドサーブ。鋭いが、ファーストよりは全然遅い。フォア側にレシーブ。バックに返ってきたところを、バックハンドでバック側ギリギリに決める。0-15。
しかしさすがの強さだ。世界大会ベスト4。今回初めてここまで上がってきた無名新人選手。
軽く勝てるのかと思っていた。そうではなかった。俺としたことが、フルセットまで持ち込まれてしまった。
俺のサーブ。ファースト。少し回転をかける。打つ。リターン。返された。しかし弱い。俺はすかさずバックハンドで空いたフォア側に打ち返す。追いつけない。決まった。0-30。
アリーナは静まり返り、俺達の試合を注視している。モニターの片隅に453,240の文字。45万人がリアルタイムで俺達を見ている。
奴のサーブ。ファースト。来る。ビッ。音がして玉が背後に跳ねてゆく。サービスエース。決められた。手が出ない。観衆から歓声があがる。遅延した歓声が響き渡る迄に数秒を要した。15-30。
俺のサーブ。ここ一本。俺はここで今まで使ってこなかった新サーブを使うことにした。とっておきの虎の子だ。ラケットの最先端にボールを当て、ガットと枠の間で無回転ボールを作り出す魔球。この一年練習してきたこの技を、今見せてやる時が来た。
静まる観衆。投げ上げられるボール。俺は大胆かつ慎重にラケットを振り抜く。上から、下へ。最先端がボールを捉える。ガッ。枠の音がして、ボールが飛ぶ。無回転。奴のラケットが空を切る。よし!! 決まった!!
その魔球が決まると相手は呆気なく崩れ、俺は2ポイント連取。フルセットをものにすることができた。
大歓声が鳴り止まなかった。決勝進出。観衆はその俺の快挙を喜ぶとともに、無名新人プレイヤーのここまでの健闘を讃えた。
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