3.接近

2/5
672人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
「やー!ほんとに申し訳ない松原サン!」 エレベーターでマンションを上がりながら純が言う。 「金曜日なんで、大丈夫ですよ」 にっこり笑うが、心の中では人が入れる状況だったか部屋の中を思い返していた。 結局、二人とも電車を使わないとタクシー代がバカにならないところに住んでおり、 いつもなら自分からこんなことを提案することはないが、秋葉と距離を縮めたいという打算的な気持ちもあり、 自分から「家、来ます?ほんとに何もおかまいできませんけど」と声をかけた。 渋る秋葉に比べ純は大喜びで、「迷惑かけませんから是非是非!ね、秋葉」と秋葉も説得してくれた。 困ったような表情で秋葉も隣に立っている。酒が入っていなければ、彼女は間違いなくここにはいないだろう。純が現れたことも、本当にツイている。 母親は出張続き。持ちマンションというと色めき立つ女も多いが、要は実家だ。 ガチャリと鍵をあけ、電気をつける。 「うっわ~!広!つかなにこのオシャレさ・・・!」 純が声をあげ、「声、大きい」と秋葉が止める。その表情には、持ちマンションだとか、その広さとか、に対する感動は残念ながらなさそうだった。 「鈴木さん、宮川さん、上着かけるよ。」 二人の上着と自分の上着をハンガーにかけ、クローゼットにしまう。 「何か飲む?」 ペットボトルのお茶と・・・ウイスキーとサイダーがあるからハイボールは作れるかな。 「いいじゃないですか!せっかくだから飲みましょうよ~!」 「もう!!純ちゃん!!」 怒る秋葉に声をかけた。 「宮川さん、大丈夫だよ。俺もなんか飲みたい気分だったし。こないだ成瀬が来た時に置いてったつまみも残ってるから、食べてくれると嬉しいかな」 眉間に皺を寄せながら、申し訳なさそうに、すみません、とこぼした。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!