1.最低なゲーム

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「すみません、ちょっと第二の成瀬に用があってきたんだけど、もう帰ったかな」 彼女はくるりと振り返り、顔色を変えずに言った。 「今日は19時くらいには帰られていたと思いますよ。」 その時、初めて目があった。 肌は白い。化粧も薄いのに、目はパッチリとしている。 あれ、この子、笑ったら可愛いんじゃないの。 そう思いながら、言葉を返す。 「そっか。残念。宮川さんも遅いね」 第二部の他の社員は、ぽつぽつと残っているだけで、女性社員は一人もいない。 「いえ・・・」 ぴた、とそこで会話が終わってしまった。 通常であれば、俺が話しかけた時点でたいていの女子は色めき立ち、「松原さんも遅いんですね」なり、「帰りですか?だったら駅まで・・・」なり、食いついてきてくれるが、 さすがに噂通り、そんなに簡単にはいかないか。 こういうタイプは、距離間を詰めるのは慎重にしないといけないな。 「良かったら、一緒に下まで降りる?」 彼女も手にかばんを持ち、今にも出られる状況。駅までだと抵抗感もあるかもしれないが、さすがにエレベーターくらいは一緒に乗ってくれるだろう。 「あ。いえ、大丈夫です。」 俺の楽観は一瞬で吹き飛ばされてしまった。んー、手ごわい。 「そっか。ごめんね。じゃぁ、お疲れ様」 「お疲れ様です」 くるりと踵を返し、さっさと立ち去る。流れで一緒に帰れたら良かったが、さすがに無理か。はぁ、とため息をつきエレベーターにのる。 ただ、仕事だけの頭から、こういうことを考えると、頭が切り替わって気分転換にもなっているのは確か。 「ほんと、サイテーだな」 苦笑しながらぼそっと落とし、帰路についた。
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