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「すみません、ちょっと第二の成瀬に用があってきたんだけど、もう帰ったかな」
彼女はくるりと振り返り、顔色を変えずに言った。
「今日は19時くらいには帰られていたと思いますよ。」
その時、初めて目があった。
肌は白い。化粧も薄いのに、目はパッチリとしている。
あれ、この子、笑ったら可愛いんじゃないの。
そう思いながら、言葉を返す。
「そっか。残念。宮川さんも遅いね」
第二部の他の社員は、ぽつぽつと残っているだけで、女性社員は一人もいない。
「いえ・・・」
ぴた、とそこで会話が終わってしまった。
通常であれば、俺が話しかけた時点でたいていの女子は色めき立ち、「松原さんも遅いんですね」なり、「帰りですか?だったら駅まで・・・」なり、食いついてきてくれるが、
さすがに噂通り、そんなに簡単にはいかないか。
こういうタイプは、距離間を詰めるのは慎重にしないといけないな。
「良かったら、一緒に下まで降りる?」
彼女も手にかばんを持ち、今にも出られる状況。駅までだと抵抗感もあるかもしれないが、さすがにエレベーターくらいは一緒に乗ってくれるだろう。
「あ。いえ、大丈夫です。」
俺の楽観は一瞬で吹き飛ばされてしまった。んー、手ごわい。
「そっか。ごめんね。じゃぁ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
くるりと踵を返し、さっさと立ち去る。流れで一緒に帰れたら良かったが、さすがに無理か。はぁ、とため息をつきエレベーターにのる。
ただ、仕事だけの頭から、こういうことを考えると、頭が切り替わって気分転換にもなっているのは確か。
「ほんと、サイテーだな」
苦笑しながらぼそっと落とし、帰路についた。
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