8.仕返し

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長らく我慢させられているからだろうか。 会社でもふと気を抜くと俺は気だるげで、 それを見た女性社員たちが、 「松原さんの最近の色気、やばくない!?」と色めき立っていたりなかったり。 ある日、成瀬のいる第二に書類をもっていくと、 例の沢田麗華が、どん、とぶつかってきた。 「ごめんね、大丈夫?」 「っ!ごめんなさい!」 「あー、こぼれちゃったね。」 成瀬への書類を渡し、一緒に給湯室に行く。 スカートにコーヒーのシミがついてしまったようだ。 ぽん、ぽん、と叩きながら、上目遣いで言う。 「ごめんね、これ、とれそうにないから、クリーニング代、出すから」 上目遣いだからなのか、欲求不満により何かフェロモンでも出ているのか、澤田麗華はうっとりと俺を見下げている。 「いえ、私の不注意なんで、大丈夫です。」 そう言ったので立ち上がり、目線を合わせる。 ほんとに、遠慮なく言ってね、 そう言い立ち去ろうとすると。 「松原さん、今、彼女いらっしゃらないですよね!?」 身体が付きそうになる距離で、いきなり質問をしてきた。 「んー。いないといえばいないけど、 好きな子がいるよ」 サラッと正直に返す。 引いてくれるかな、と思ったけど、難しそうだ。 それって、と、少し攻撃的な目をして言う。 「宮川さんの事ですか」 どうかな、と微笑んでその場を去ろうとしたが、 袖を掴んで逃してくれない。 「あの子、見かけによらずビッチだって噂です!」 「仕事だって、協調性もないし、」 「人の気持ちが分からない子ですよ!」 上目遣いで、その目を涙ぐませ、まくしたててくる。 その言葉、自分に全部返っちゃうのにな。 あ、見かけによらずビッチは、嘘でもないか。 思い出してクスリと笑い、きょとんとしている麗華に伝える。 「君は、自分の仕事の評価を周りに聞いたことある?」 え・・・と目を丸くしている麗華に厳しく突きつける。 「自分の仕事も満足に出来ない子に、人を批判する権利はない。」 「あと、何かビッチか分かんないけど、もういい年齢なんだから、誰だって多少は経験あるでしょ。」 「もうちょっと自分のこと、客観的に見てみたら?」 ちょっとキツかったかな。 申し訳ないが、今、秋葉以外に優しくする余裕はない。 ごめんね、と最後には言い、衝撃で固まっている麗華を置いて、給湯室を出た。
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