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「信玄さんっ!」
志絆さんと一緒に駆け込んだ部屋には、信玄さんの側に座るユッキーがいた。
ユッキーは眠る信玄さんの傍らに寄り添い、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ユッキー」
声を掛けるのも躊躇いたくなるユッキーの姿に、信玄さんの容態が窺える。
「幸村くん、今、医者が来るから」
志絆さんがそっとユッキーの肩に手を乗せる。
だけど、ユッキーの耳には届いてないみたい。
何も言えない沈黙が続いたけど、そこにお医者さんが来て私達は一度部屋を出た。
「志絆さん、ユッキーは?」
少し目を離した間に、ユッキーの姿が消えていた。
「幸村くん?あれ、どこに行ったんだろ」
どうやら志絆さんもユッキーが消えたことに気付かなかったみたい。冷静そうに見えるけど、やっぱり志絆さんも動揺してるのかな。
それはそうだよね、倒れたのは他でもない甲斐の大黒柱の信玄さんなんだから。
とりわけユッキーは信玄さんのことを尊敬している。
ううん、それだけじゃない。
自身が歩むべき道の指針としている。
だからこそ、他の誰よりショックを受けてしまったのかもしれない。
こんな時にさーちゃんがいないなんて。
昼間だというのに、厚い雲のせいで随分暗く感じる。
せめて、日の光が見えれば気持ちも少しは明るくなるのに。
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