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数週間後。
男はようやく意志が固まり、女を食事に誘った。――もちろんそれはカフェなどではなく、洒落た店だ。
女はもちろん、と快く誘いを受けた。
その日は朔月で、しかも生憎の雨だったが、ふたりはそれを気にすることなく街へ繰り出した。
「オレ、さ。キミのことが好きなんだ」
男は言う。
「だから私もだって言ったじゃないですか」
女は答える。
「……これ、キミに渡したいんだ」
男は指輪を差し出した。
「……え?」
女はそれを見て、狼狽えた。
「オレと、結婚してください」
男は言い募る。
「待って」
女は言い淀む。
「……私たち、まだ付き合ってすらいないですよ」
「なら、これから付き合えばいいじゃん。その指輪は……またオレが貰う。その時が来たらまたキミに渡すよ」
男は困惑の欠片も感じさせず、言い切った。
「……なら、一旦私が預かってもいいですか?私が今日中に答えを出して、明日また返事をします。それでもいいですか?」
女は提案した。
「……うん、分かった。じゃあまた明日、返事を聞かせて」
男はその提案に乗った。
ふたりはその後、食事を終えるとそれぞれ帰り道を急いだ。雨の降りしきる中で。
――――そして物語は、起点へと還る。
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