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暗。
美波が呟いた。絶頂から帰ったか。
電気消したの?
いや。消してない。
何? 停電?
そうかもしれない。今日は台風だ。だから会社が五時前に終了になった。僕は上司として、美波に言った。送るよ、と。こんなふうに大っぴらに美波を誘えたのは初めてだった。美波は返事をしなかったが、目が色づいたのがわかった。顔には出さない。でも、目の底が妖艶に光るのだ。魔力をたたえて。
電気つかないの?
さっきからやっている。電気はつかない。僕は携帯のライトをつけた。
窓は開かないの?
この時間なら外はまだ明るい筈だ。でも窓は開かない。窓が無いのだ。
もしかして、ドアも開かない?
ドア?
玄関に行ってみた。いつも驚くような大きな音を発する自動支払機が死んでいる。その横のドア。開けてみる。開かない。ドアが開かない。押しても、引いても。
ドア開かない。
ベッドの上でシーツにくるまっている美波に言った。
うーん。
美波はちょっと困ったような声を出してみせる。
ふふ。
そして笑う。
ね。ゆっくりしよ。ちょうどいいじゃん。
魔力。魔力だ。
僕は美波の待つシートの中に潜り込んだ。
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