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俺の表情はかなり訝しげになっていたに違いない。クマはハッ! と我に返ったように肩をビクッと上げて、それから顔を真っ赤にした。ズシンと重そうな一歩を踏み出すクマに、たった三歩で距離を詰められる。
至近距離のクマはそびえ立つ山か壁みたいな圧迫感。首を直角に曲げないと顔が見えない程だ。でもそれ以前にクマの突進にびっくりした俺は、思わず後ずさりしていた。クマが口を開く。
「あ、あの、お、お、お」
「お?」
見事なまでのドモリにますますビビっていると、グローブみたいな分厚い手がヌッと差し出された。
「お、お待ちしてました。俺、あ、いや、わたしは、藤原恒星です。この寮の二階に住んでいます」
「は、はぁ……あ、二階? じゃあ、お、同じ階ですね」
分厚い手に、骨を砕かれるんじゃないか? と心配しながら一応俺も恐る恐る手を差し出す。クマは目をキラキラさせて俺の手を迎えるようにギュッと握った。分厚いだけにその手は物すごくあったかかった。
俺が冷え性だから余計そう感じるんだろうか?
クマはサッと手を離すとポケットからハンカチを取り出して額を拭いだした。今は三月。まだけっこう肌寒いのに、うっすら汗をかいてるなんて、やっぱりガタイがいいと代謝の方もいいのかもしれない。
「はなさき、れん……さん。すごく可愛い名前ですね」
クマはなぜか照れた様子で顔の汗を拭いている。あがり症? 俺は「はあ、どうも」とわけのわからない返事をするしかなかった。成人した男相手に『名前が可愛い』なんていうのはハッキリ言って失礼だと思う。でも、初対面の先輩と思われるクマにそんなことを言える度胸なんてもちろんあるわけがない。
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