クマさんとの出会い

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 駅のアナウンスが降りる駅名を告げた。文庫本に慌ててしおり紐を挟み、鞄を抱え立ち上がる。座ってる分にはいいけれど、東京はやたらと人が多い。初めて来た時は人酔いして目が回り、最終的に吐きそうになった。でも、今日から俺も都会に住む。人酔いなんて言ってられない。さっさと扉までいかないと。 「すみません。……降ります。あ、すみません……あの……」  鞄を胸にギュッと抱え、乗客の人波を掻き分けるように車両から降りた。改札を出て、胸ポケットに入れていたメモを取り出し、出口を目指す。  出口もたくさんあってこうやってメモをしておかないとえらい所へ出てしまう。完全に迷路だ。前に来た時は出口を間違え、街の中を四十分ほどウロウロ彷徨うことになった。無事、目的地へ到着した時は、こんなこともあろうかと一時間早く実家を出発した己を「さすがだ」と心の中で褒め称えたものだ。  もう大丈夫だと思うけど、念の為メモと地下道の壁や天井にある案内を何度も見比べ、ようやく地上へ出る。  駅から徒歩十五分のところにある社員寮が目的地だ。  荷物は午前中に社員寮に配送されている予定。実家からの荷物の中身は主にPCやDVD、本ぐらい。それらを入れる本棚やベッド、コタツなんかは全部午後に届くようにネットで購入した。
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