クマさんとの出会い

4/6
1272人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
「よし」  無事に到着。  今日から我が家となる古い社員寮を見上げる。  手早く作業を終わらせてしまおう。電車内で読んでた本の続きを読みたくてウズウズする。  贔屓にしてる作家、泉まりあ先生の新作は昨日発売されたばかり。  昨日、朝一で本屋に行き無事新刊をゲットできたのだけど、早速部屋にとじこもろうとしたところを母さんに捕まり連行されてしまった。「家族で過ごす最後なんだから」と父さんと母さん姉さんまで揃ってみんなで買い物へ行き、頼んでもない服や下着を買い揃えられ、そのまま外食。家に戻りやっと解放されたかと思えば、何故かおじいちゃんと将棋をする羽目になった。みんなが妙にソワソワしてるし、おばあちゃんは涙目で昔話をしだすし、なんだかんだ落ち着かず本は未開封のまま、結局昨夜は早めに就寝した。我慢しきれず、ちょこっと電車の中で読んだんだけど、さすがは泉先生。冒頭からかなり引き込まれる。早く腰を据えてゆっくりと読みたい。  建物の玄関ドアは大きく開け放たれていた。  配送された荷物は全て一階の玄関ロビーに山積みになっている。多分俺の注文したものだ。宛名を確認していると、「あ、あの」と太くて低い声がした。振り返ると無精ひげの生えたクマみたいな大男がヌッと立っている。  あ、住人? えらくデカイ人だな……。 「おはようございます。今日から寮に入る花咲怜(はなさきれん)です。……よろしくお願いします」  住人と思われるクマを見上げちょこっと頭を下げる。クマは口をポカンと開け立ち尽くしていた。三秒ほど続く沈黙。俺はその間、数回のマバタキをした。  なんだろう、用事があったから声かけてきたんじゃないのか? 
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!