1272人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
クマはポーッと俺の顔を見ていたけど、またハッ! と我に返った様子。それから焦ったようにまくしたてた。
「あ! あの、会社から言われて、引越しのお手伝いと寮の案内をと思いまして。とりあえずこの荷物を全部二階へ運びますね?」
「ああ、すみません。助かります」
ここは社宅と言うより、寮の作りに近い。玄関で靴を脱ぎ、自分用のスリッパやルームシューズに履き替えることになっている。クマは大きな健康サンダルを足に引っ掛けていた。男性用のLサイズだろう健康サンダルがパンパンで小さく見える。
クマは本が入ったずっしり重いダンボールを二つ重ね、軽々という感じにヒョイと持ち上げると、平気な顔で階段をガッガッと登っていく。
「この寮、古くてエレベーターがないんです。三階建てなんで」
息を切らせることもなく喋りながら二階へ到着。俺はダンボール一つ抱えあとに続いたけど、ずっしり重い段ボールにすぐに息があがってしまう。
「こっちです」
階段を左へ曲がるとドアが四つ。一つ目のドアの前を通ると、クマがしれっと言い放った。
「ここは開かずの間です」
「は?」
え? 開かずの間? 空室じゃなくて、開かずの間?
二つ目のドアの前でピタリと止まってクマが振り返った。
「ここがわたしの部屋です。花咲さんはその隣です」
「あ、はい」
クマは三番目の部屋の前にダンボールを置くと、ジャージのポケットから鍵を取り出した。
「この小さいのが部屋の鍵。こっちが正面玄関の鍵です。みんなそれぞれ正面玄関の鍵は持っています。あ、ちなみに三階には三人住んでますが今は不在です。夜にでも紹介しますね?」
「ありがとうございます。え……っと、じゃあ、一番奥の部屋も……開かずの間?」
クマはニッコリして頷いた。
「そうです」
最初のコメントを投稿しよう!