クマさんとの出会い

6/6
1272人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
 クマはポーッと俺の顔を見ていたけど、またハッ! と我に返った様子。それから焦ったようにまくしたてた。 「あ! あの、会社から言われて、引越しのお手伝いと寮の案内をと思いまして。とりあえずこの荷物を全部二階へ運びますね?」 「ああ、すみません。助かります」  ここは社宅と言うより、寮の作りに近い。玄関で靴を脱ぎ、自分用のスリッパやルームシューズに履き替えることになっている。クマは大きな健康サンダルを足に引っ掛けていた。男性用のLサイズだろう健康サンダルがパンパンで小さく見える。  クマは本が入ったずっしり重いダンボールを二つ重ね、軽々という感じにヒョイと持ち上げると、平気な顔で階段をガッガッと登っていく。 「この寮、古くてエレベーターがないんです。三階建てなんで」  息を切らせることもなく喋りながら二階へ到着。俺はダンボール一つ抱えあとに続いたけど、ずっしり重い段ボールにすぐに息があがってしまう。 「こっちです」  階段を左へ曲がるとドアが四つ。一つ目のドアの前を通ると、クマがしれっと言い放った。 「ここは開かずの間です」 「は?」  え? 開かずの間? 空室じゃなくて、開かずの間?  二つ目のドアの前でピタリと止まってクマが振り返った。 「ここがわたしの部屋です。花咲さんはその隣です」 「あ、はい」  クマは三番目の部屋の前にダンボールを置くと、ジャージのポケットから鍵を取り出した。 「この小さいのが部屋の鍵。こっちが正面玄関の鍵です。みんなそれぞれ正面玄関の鍵は持っています。あ、ちなみに三階には三人住んでますが今は不在です。夜にでも紹介しますね?」 「ありがとうございます。え……っと、じゃあ、一番奥の部屋も……開かずの間?」 クマはニッコリして頷いた。 「そうです」
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!