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「荷物を取りに構内に入れるからだろ」
槇は悪びれなく、にこにこと笑っている。電車が大好きな槇は、いつだって駅に行きたいのだ。
断る理由もないから、作業が終わったら槇と行くことにした。
「手紙、来たのか」
「うん、なんだか相変わらず未知の世界の話が書いてあった。秋のバレエ発表会に向けてみんなで衣装を縫っていますとか、同級生の誕生会にお呼ばれしました、とか」
たぶんテーブルには見たこともないご馳走が並んでいたんだろう。少なくとも鯖の缶詰めではなく。
「それって、この世の話だよな」
「たぶんな」
富みは平等に分けられたはずだけれど、物は大きな町に集約してから各地へ分配されるから、どうしても、そちらには良いものが流通するらしい。
伸びた茅をザクザクと切る。草いきれに刺激されてクシャミが出そうだから、タオルで鼻と口のあたりをおおう。
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